身の回りに急な斜面や渓流などがあったら、それらが土砂災害の危険性が高いかどうか調べてみましょう。
個人が自ら調べるのは困難を伴いますので、まず、行政(国、県、市町村)の公表している情報を見てみましょう。行政では、過去に発生した土砂災害を3種類(がけ崩れ、土石流、地すべり)に大別し、それぞれが発生しやすい場所を「土砂災害危険箇所」(「急傾斜地崩壊危険箇所」、「土石流危険渓流」および「地すべり危険箇所」)とし、「土砂災害危険箇所マップ」としてホームページ等で公表しています。このマップに自分の知りたい斜面や渓流がのっているか調べましょう。
なお、「急傾斜地崩壊危険箇所」は、傾斜度30度以上、高さ5m以上の急傾斜地で人家や公共施設に被害を及ぼす恐れのある急傾斜地および近接地を、「土石流危険渓流」は、渓流の勾配が3度以上あり、土石流が発生した場合に被害が予想される危険区域に、人家や公共施設がある渓流を、「地すべり危険箇所」は、空中写真の判読や災害記録の調査、現地調査によって、地すべりの発生する恐れがあると判断された区域のうち、河川・道路・公共施設・人家等に被害を与える恐れのある範囲をいいます。
「土砂災害危険箇所」は、法的な制限を受けるものではありませんが、この中から、法律に基づいて指定された区域が「土砂災害警戒区域」(いわゆるイエローゾーン)、「土砂災害特別警戒区域」(いわゆるレッドゾーン)です。「土砂災害警戒区域」は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命または身体に危害を生じるおそれがあると認められる区域です。区域内では、危険の周知、警戒避難体制の整備等のいわゆるソフト対策が行われます。具体的には、災害情報の伝達や避難を早くする取り組みや、「土砂災害ハザードマップ」の作成・配布・確認などがあります。「土砂災害特別警戒区域」では、さらに、特定開発行為に対する許可制、建築物の構造規制、構造物の移転等の勧告などが行われます。自分の知りたい斜面や渓流が、これらの区域に指定されているか確認しましょう。
なお、土砂災害警戒区域では、急傾斜地の崩壊については、傾斜度が30度以上で高さが5m以上の区域、急傾斜地の上端から水平距離が10m以内の区域、急傾斜地の下端から急傾斜地の2倍(50mを超える場合は50m)以内の区域となっています。土石流については、土石流の発生するおそれのある渓流において、扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域となっています。また、地すべりについては、地すべり区域(地すべりしている区域または地すべりするおそれのある区域)、地すべり区域下端から、地すべり地塊の長さに相当する距離(250mを超える場合は250m)となっています。土砂災害特別警戒区域は、土砂災害警戒区域内にあります。
*国土交通省水管理・国土保全局砂防部編 「土砂災害防止法の概要」より |
急傾斜地の崩壊
イ 傾斜度が30度以上で高さが5m以上の区域
ロ 急傾斜地の上端から水平距離が10m以内の区域
ハ 急傾斜地の下端から急傾斜地高さの2倍(50mを超える場合は50m)以内の区域
土 石 流
土石流の発生のおそれのある渓流において扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域
地 滑 り
イ 地滑り区域(地滑りしている区域または地滑りするおそれのある区域)
ロ 地滑り区域下端から,地滑り地塊の長さに相当する距離(250mを超える場合は250m)の範囲内の区域
急傾斜地の崩壊に伴う土石等の移動等により建築物に作用する力の大きさが,通常の建築物が土石等の移動に対して住民の生命又は身体に著しい危害が生じるおそれのある崩壊を生じることなく耐えることができる力を上回る区域。
*ただし,地滑りについては,地滑り地塊の滑りに伴って生じた土石等により力が建築物に作用した時から30分間が経過した時において建築物に作用する力の大きさとし,地滑り区域の下端から最大で60mの範囲内の区域。
(国土交通省水管理・国土保全局砂防部編 「土砂災害防止法の概要」より)
以上の指定のほかに法律で指定されている区域があります。「砂防指定地」(砂防法)、「地すべり防止区域」(地すべり等防止法)、「急傾斜地崩壊危険区域」(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律)などです。これらの場所では、主に行政(県の県土整備部砂防課)によるハード対策が行われてきました。以上を次図にまとめています。
図-1 土砂災害の危険性のある箇所 |
災害の原因は、「誘因」、「素因」、「人因」からなります。「誘因」は、台風、豪雨、地震などの外部からの力(誘因外力)で表され、「素因」は、誘因外力をうける対象の抵抗力(素因抵抗力)で表すことができます。たとえば斜面や建物などの強さです。さらに、「人因」とは、各種の人間の営みのことをいいます。異常な自然現象は、誘因外力が素因抵抗力を超えたときに発生しますが、それだけでは災害ではありません。その場に人間の営みがなければ、ただの自然現象です。人間の営み、すなわち「人因」があって初めて災害が起きるのです。
防災・減災対策では、これらの3要因(「誘因」、「素因」、「人因」)に働きかけて被害を防ぐ「防災」対策もしくは被害を少なくする「減災」対策が行われています。
上述の土砂災害の危険性のある場所の指定は、まさに「素因」を明らかにしたものと考えられますが、近年の地球温暖化にともない降雨などの「誘因外力」が大きくなってきています。現状では安定している斜面でも、「誘因外力」が大きくなった場合、不安定になる可能性もあります。自らが土砂災害の「前兆現象」に気を付けるとともに、避難勧告等が出た場合には、積極的に「避難」することが肝要です。
図-2 福岡大学周辺の土砂災害危険箇所の例 |
(福岡県県土整備部砂防課)
*ただし
茶色のゾーン:急傾斜地崩壊危険箇所
青色の渓流と緑色のゾーン :土石流危険箇所
(渓流先端の青色: 土石流が氾濫する可能性のある区域)